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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)469号 判決 1964年6月27日

原告

昭和飛行機工業株式会社

右代表者代表取締役

弘中協

右訴訟代理人弁護士

青木一男

被告

右代表者法務大臣

賀屋興宣

右指定代理人

関根達夫

(ほか三名)

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の土地および建物を明け渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一、原告

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、請求の原因

一、原告は別紙目録記載の土地(以下係争の土地という)および建物(以下係争の建物という)の所有者であるところ、被告はこれを米駐留軍に使用占領させることによつて間接占有をなしている。<中略>

第三、被告の答弁と主張

一、答弁<省略>

二、主張

(一)  駐留軍は、請求原因二の(一)、(二)の経緯により、係争の建物を含む本件工場施設および係争の土地を含む本件土地を占有するに至つたわけであるが、平和条約発効後の本件賃貸借は、米駐留軍の使用に供する目的をもつて締結されたものであつて、その終期を駐留軍が本件工場施設、土地の使用を必要としなくなり、これを解放して日本政府に引き渡すまでとする不確定期限としたものであり、現在なお駐留軍がこれを使用しているのであるから、未だ右期限は到来していない。

ところで、不確定期限の定めであることは次の諸事情により明らかである。

1  本件契約に関して作成されたいくつかの契約書(例えば昭和三三年一〇月二七日付契約書、甲第一号証)にはいずれも、期間を一年とする条項があるが、これは次のように国の予算が財政法会計法の制約下にあるために単に賃料その他の条件の改訂を考慮して形式的に定めたものであり、存続期間を定めたのではない。すなわち

(イ) 一般に国家機関が当該会計年度内に弁済すべき債務を生ずる法律行為は歳出予算の枠内においてこれをするのであるが、当該会計年度以降にわたつて弁済すべき債務を生ずる法律行為をするには歳出予算の外に別にその旨を定めた継続費又は国庫債務負担行為として国会の議決を経なければならない立前になつている(財政法第一四条の二、同第一五条)。

そして、国が土地建物等を当該会計年度を越えて長期に賃借するような行為は、まさに当該会計年度以降にわたつて弁済すべき債務を負担する法律行為であるから、歳出予算のみをもつてはこれを賄うことはできず、国庫債務負担行為として国会の議決を経なければならないのである(継続費は、数ケ年を要して完成する事業費や工事費のみに限られ、単純な土地、建物等の賃貸借のような行為はこれに該当しない)。ところが、通常国が土地、建物等を長期に賃借する場合には、賃貸借期間が予め特定できないとか賃料の変動が予想されるとかいう事情の存することが多く、この場合にはこれを国庫債務負担行為として国会に付議するのに支障がある。

なぜなら、右負担行為は、予め予算をもつて国会の議決を経る必要があり(同法第一五条第一項)、その予算には行為年度とともに債務負担の限度額を示さなければならない(同法第二六条)のに、賃借期間が予め特定できないとか賃料の変動が予想されるような場合には、債務負担の限度額すなわちその総額を予め予算をもつて明示するのは困難なためである。<以下省略>

理由

一、(1)請求原因一記載の事実、(2)原告が明渡を求める別紙目録記載の係争土地を含むその主張の土地約四九万坪の本件土地とその地上の航空機製造工場(原告が明渡を求める同目録記載の係争建物はそれに付属する胴体置場であつた)の本件工場施設が昭和二〇年九月三日連合国占領軍によつて接収され、同日付でこれにつき賃貸借契約が締結されて、以後平和条約発効の昭和二七年四月二七日までは連合国占領軍の、その後は米駐留軍の占有(直接占有)に委ねられてきたこと、(但し、昭和三二年九月から昭和三五年六月三〇日までに本件工場施設、土地中係争の土地、建物を除く部分が原告に返還されて、係争の土地、建物のみが未返還となつている)、(3)平和条約発効後の原被告間の本件賃貸借については、昭和二八年七月三日付をもつて期間を昭和二八年三月三一日までとする契約がなされ、次いで同月一日以降昭和三五年三月三一日までは一年毎に、同年四月一日以降昭和三六年三月三一日までは三ケ月毎に賃貸借期間が更新(延長)された(但し、右更新が書面上の形式にすぎないか否かにつき争いがある)ことは、いずれも当事者間に争いがないところである。

二、原告は、平和条約発効後の本件賃貸借は単純に期間一年毎又は三ケ月毎のものである旨主張し、被告は、右賃貸借はその終期を米駐留軍が本件工場施設、土地の使用を必要としなくなりこれを解放して被告(日本政府)に引き渡すまでとする不確定的期限としたものであり、仮に期間を一年とするものであつても、その終了の際に被告が一方的に期間を更新できる一方的更新権を留保した旨主張する。

(一)  そこでまず右契約締結の経緯を検討する。

1  当事者間に争いがない右一の(2)の事実、<証拠―省略>ならびに弁論の全趣旨によると、

(イ) 昭和二〇年九月三日占領軍による右接収の後同日付で原告との間に「契約期間を昭和二〇年九月三日より本件賃貸借の目的の終了まで」とする定めで賃貸借を締結し、次いで昭和二三年四月一日付土地賃貸借契約書(乙第二号証)において、「連合軍の使用に供するため賃借する」ことを明らかにしかつ「期間は昭和二〇年九月三日より昭和二四年三月三一日とする」と定めて、同年四月一日以降平和条約締結当時まで一年毎(当該四月一日より翌年三月三一日まで)に期間を更新(延長)する形式がとられてきたこと、

(ロ) しかして、平和条約発効当時には、右のような更新の繰返しの末、昭和二六年一〇月一〇日付不動産借上契約書(乙第三号証)が原被告間に取り交わされていたこと、そしてこれによると、その第一条で占領軍の専用に供することを賃貸借の目的とし、その第二条で期間を昭和二六年四月一日より昭和二七年三月三一日までと定めたがその第三条では政府において同一条項により任意に契約を更新できる旨の一方的更新権を留保していること、次いでその後被告は昭和二七年三月二八日付「更新通知書」をもつて昭和二七年四月一日以降も右契約を一方的に更新する旨通知をしたこと、

が認定できる。

2  当事者間に争いがない右一の(3)の事実、<証拠―省略>の各証言によれば、

(イ) 平和条約の発効により連合国占領軍は日本国に駐留する根拠を失つたけれども、政府は安全保障条約第一条の目的を達成するために行政協定第二条により在日米軍に施設、区域を提供することとし、その施設区域の決定を同協定第二六条による合同委員会の協議に委ねた(なお、条約発行前から日米双方の代表者によつて構成された予備作業班によつて右の作業が行われていた)、ところが、在日米軍は平和条約第六条により条約発効九〇日間は従前の占有を継続できるが、それ迄に右協議が成立しないことのあるのに対処して右九〇日経過後でも在日米軍に使用継続を許すことにした(岡崎ラスク交換公文)。

そこで被告(東京調達局)は、右事情を前提として、昭和二七年七月三日付調達庁の通達に従い、原告に対し、「駐留軍使用施設についての契約上の御依頼について」と題する書面(乙第一四号証)をもつて「平和条約発効後住宅その他が逐次返還されつつあり、また駐留軍に支障のないがぎりできるだけ速かに返還されるよう努力中であるが、原告より借用中の施設については、未だ日米合同委員会において返還が決定となつていないので、平和条約発効後の九〇日後である昭和二七年七月二八日以降も一先ず契約の継続を願いたい、今後の契約書は別添のとおりである。日米間の取極めによつて施設の返還が決定するまでは駐留軍に使用させる必要があるので、新契約に同意願いたい」旨の申入をなしたこと、この別添の書面は、従前の契約条項のうち、(1)占領軍を駐留軍に読み替える、(2)第三条の更新権を削除する、(3)はの他賃料支払方法の改訂、英文の削除等を定め、これを昭和二七年七月二八日以降有効とすることにしたものであること、原告は、右申入に対し送付された別添の書面の賃借人欄に署名し、これを被告に交付して右申入を承諾し、ここにおいて日付を昭和二七年七月二八日とする右別添書面記載どおりの契約(乙第五号証)が成立したこと、次いで、平和条約発効後の契約の基本になるものとして、昭和二八年七月三日をもつて、「土地賃貸借契約書」と題する書面(乙第六号証)により、「安全保障条約第三条に基く行政協定を実施するために駐留軍の用に供すること」を目的とし、第五条で「期間を昭和二七年七月二八日より昭和二八年三月三一日まで、但し乙(政府)において必要のあるときは甲(原告)乙協議の上本契約を更新できる」旨定めたほか、諸種の契約条件を約定したこと、

(ロ) ところで、右新たな契約の締結については、専ら右のように書面の交換によつてなされたものであつて、特に原被告が契約の目的、期間について直接協議したものではないこと、

(ハ) そして、その後は、被告が右第五条の文言に従つて一年間(四月一日より翌年三月三一日まで)の契約期間の延長を求め、原告が右延長の申入に応ずるという形式で一年毎(但し昭和三五年四月一日以降昭和三六年三月三一日までは同様の方式で三ケ月毎)に契約書を取り交わしたこと、

以上の各事実を認めることができる。

3  とこで、この間の昭和二七年七月二六日日米間に右行政協定第二条により米駐留軍に提供する施設区域が決定したので、同日、官報号外外務省告示第三四号をもつて右決定が告示されたことは顕著なところであり、右告示によると本件工場施設、土地が「一時使用」のものに属せしめられていることは当事者間に争いがない。

しかして、右「一時使用」の意義は、昭和二七年七月二九日の第一三回国会参議院外務委員会における政府委員の説明(同会議録四六号。行政協定による呉市駐留軍の請願第三二九五号に対するもの)、その他日米合同委員会の日本側代表の発表等に徴し、すでに駐留軍が返還に同意しているが、現在移転先がないとか、移転先を建築中であるとか或いは代替施設を物色中のため、移転までの暫定期間の使用である趣旨と解される。そして、右2のイのとおり原被告は昭和二八年七月三日付で昭和二七年七月二八日以降の契約条項を定めた賃貸借契約書を取交したが、その際原告においても本件賃貸借が右趣旨のものであることを了解してこれをなしたことは証人<省略>の証言によつて明らかである。

(二)  右認定事実に基く平和条約発効後の本件賃貸借(昭和二七年七月二八日以降のもの)の期限につき

1  占領中の賃貸借については、当時の客観状況に徴し、原被告双方とも占領軍より返還されるまでは賃貸借の存続をやむを得ないとする意思を有するものと推認すべきであり、この事実と、国が会計年度を超える賃貸借を締結するにあたつては、歳出予算の関係から被告主張(二、(一)、1の(イ))のとおりの制約が存在する事実ならびに右認定の(一)、1の(イ)の事実に照らすと、契納書上の期間一年間(会計年度)の定めは特に明文をもつて更新権を留保していると否とを問わず、被告において期間満了当時(会計年度当初)一方的に期間を一年間(一会計年度)延長する権利を留保する旨の特約が存在したとみるべきである。

被告は占領軍から返還を受けるまでを終期とする下確定期限の定めであると主張するけれども、賃料債務について一年(会計年度)を超える債務を負担したことになるのであるから、いわゆる国庫債務負担行為としてその手続を採るべきであるのに拘らずその措置に出ていないことは被告の自認するところである。そして右財政法等の制約から一年の期限の定めで、会計年度毎に延長した事実に照すと被告の不確定期限に関する主張は採用し難いところであつて、前記のように被告が一方的に延長できる権利を留保した特約であると見るのが相当である。

2  平和条約発効後の本件賃貸借に関し、

(1) 占領軍は平和条約の発効により駐留の根拠を喪失し、したがつて右占領中の契約は存続の目的を失つて(占領中の賃貸借は占領軍に使用させることを前提ないし存続目的としたことは明らかである)当然に効力を失つたと解するのが相当である。そして、右(一)の(イ)に認定したところからみれば、被告もまた当然右失効を前提として、平和条約発効後九〇日間の後の昭和二七年七月二八日以降は右と別箇独立の新契約の締結を意図してその申入をなしたものであり、原告においても、右申入どおり契約書に署名したのであるから、原被告間において、昭和二七年七月二八日以降同一物件につき占領中とは別の賃貸借が成立したとみるべきである。

ところで昭和二七年七月二八日付契約書では特に従前の一方的更新権留保の規定を削除していること、この点につき原被告双方が直接交渉をした形跡のないこと((二)の2の(ロ))および本件賃貸借は後記のように暫定的なものであること等を併せ考えると、本件賃貸借については、昭和二八年七月三日の契約書どおり、期間を一年間と定め、政府には一方的な更新権を与えないで原告との協議により更新を決定することとしたものと認めるべきである。

ところで右更新に関する協議の趣旨について、原告において恣意的に更新を拒否できるかどうかは契約当時の諸般の状況に鑑み当事者の意思を探求して決すべき問題と考えられるので、更にこの点を検討する。

当時の客観状勢に照らすと占領が終つても米軍の土地建物に対する使用関係が急変したことは認められないところであり実際上も接収物件の返還は容易ではなく(本件工場施設、土地が特に容易であつた等の特段の事情はない)、返還するにせよその時期も早急であることが予定されなかつたものであつて、したがつて、被告としては行政協定に基く必要性による駐留軍の使用を恣意的に拒否する意図でなかつたことは弁論の趣旨により明らかなところであることまた政府としては右のように更新権を削除したのは、平和条約発効後は契約書の記載上被告の一方的な権利を特に明文をもつて規定するのは当を得ないとの考えに基くものであつて、これにより会計年度毎に延長するという従前の取扱を特に変更し、契約の更新権を全面的に放棄する意図によるものでないことは証人<省略>の各証言によつて認定できるところである。

したがつて原告としては認識も予期もしていなかつたところであるから契約書上一年間の定めについて更新権の明記の有無に拘らず一会計年度毎に期間が延長されてきた従前の経過に照し軍の使用目的が変更されたり軍から返還の申出がなされる等特段の事由のない限り更新に応ずる用意即ち更新の協議を応諾する意図に出ていたものであつて、右の事由のない場合に原告の任意によつて更新を拒否できる趣旨において協議なる文言を用いたものとは認められないところである。証人<省略>の証言中これに反する部分はたやすく措信できない。

当事者間に争のない昭和三五年六月末一五万坪余が返還され、これによる未返還の本件土地の大部分がゴルフ場として使用され従前の使用目的が変更されたので、原告はその返還を請求したことから同年四月一日以降は三ケ月毎に期間延長の書面が取り交わされていることは右認定の重要な資料というべきである。

(2) してみれば平和条約発効後の本件賃貸借契約は軍において従前の使用目的を変更し、行政協定に基く使用の必要性の消滅するときは原告に更新の協議を拒否し得る合意があるというべきであり、その返還時期については社会通念上容認できる期間に限つて猶予期間が付せられていると解すべきである。

三、賃貸借終了の有無

(一)  昭和二八年四月一日以降昭和三五年三月三一日まで一年毎に期間の延長がなされたことは前記のとおりであり、被告が同年四月一日以降毎年期間経過の際の年度当初に原告に対し一年毎の期間延長請求をなしていることは当事者間に争いがない。

(二)  原告は、昭和三六年六月三〇日経過後は本件契約の目的が消滅しかつ期間猶予の必要も喪失したから、それ以降は被告において更新権を失い、したがつて、原告が被告に対し契約の更新を認めてきた最終の昭和三六年三月三一日を経過した後は契約存続の余地はない旨主張(第二、四の(二))する。

1  本件工場施設、土地の使用状態に関する請求原因三記載の事実は、同(二)の3の駐留軍が係争の土地部分にゴルフ場を設置したことが原告の無断であるとの点を除いて当事者間に争いがなく、この事実と<証拠―省略>によると次の事実が明らかである。

すなわち、平和条約発効後本件賃貸借締結当時には、(1)本件土地の約半分は本件工場施設の敷地であり、(2)その余の部分(本件で明渡を求める係争部分)は、(イ)昭和二六年九月に設置されすでにその使用を廃止された高射砲部隊の組立式兵舎八棟(別紙測量図地形図のほぼ三一二番二、三〇五番五および同番二に跨つた土地の一部に所在)、(ロ)昭和二七年七月八日に設けられた軍用犬訓練所建物六棟(同図面のほぼ三一二番二、同番五、三〇五番二、同番五および三一六番一に跨つた土地の一部分に所在)、(ハ)昭和二二年中に建てられた米軍宿舎一二棟同図面のほぼ三九九三番、同番二および四〇四一番に跨つた土地の一部)の各建物が存するのみで、その大部分は右工場施設の使用、運営は付随する飛行場用地(滑走路、車輛等の置場)と防塵用地であつて、したがつて、本件土地は殆んど本件工場施設の敷地と同施設に付随する用地に利用されていたところ、昭和三五年六月三〇日には、本件工場施設の全部とその敷地(右(2)の(イ)の部分)が返還されて係争部分((ロ)の部分)は主としてゴルフ場に使用されている(右高射砲部隊の兵舎はゴルフ場の付属建物として使用されているにすぎない。)わけである。

(なお、被告は右軍用犬訓練場として六万五〇〇坪が利用されている旨主張し、前掲乙第一七号証の一にはその旨の記載があるけれども、前掲乙第一六号証によると、右訓練場用地としては独立してその主張の坪数が存在するとは考えられず、僅かにゴルフコースの間隙を利用しているにすぎないことが認められるから、右乙第一七号証の一の記載はにわかに措信できず、他に右主張を認めるにたりる証拠は見当らない)

2  しかして、右ゴルフ場の設置は本件契約締結の際に原告においてそのような利用を容認したことを認めるべき資料はなく、また本件賃貸借の使用目的とみるべき前記行政協定実施のためにする使用とは、結局において安全保障条約第一条の米軍駐留の目的を達成するために必須的な使用方法を意味するとみるべきところ、ゴルフ場に使用することは右目的に則うものとはいい難い(弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一五証の一ないし四によると、ゴルフ場は被告主張のとおり軍の管理使用するものではなく米政府の国家機関(歳出外資金)による設置、管理、運営と定められている。)

また右建物の敷地部分についても、契約後本件工場施設全部の返還まで八年余を経過していることと、その建物の使用状態等に鑑み、この期間中でもなお移転が困難視される特段の事情の窺われない本件では、少くとも本件工場施設全部が返還されてから六ケ月ないし一年を経過した当時にはもはや期間猶予の目的を達したとみるのが至当である。

そして、本件で明渡を求める係争の建物についてもまた右と同様に解すべきである。

なお、<証拠―省略>によれば、原告は昭和三〇年二月駐留軍が右ゴルフ場を設置することに同意したことが明らかであるが、証人(省略)の証言および弁論の全趣旨に徴すると、当時は工場等の返還がなされてはおらず、原告としてはその返還されるものと信じており、また駐留軍の要求であるのでやむなく同意するに至つたものであつて、したがつて右同意によつて本件賃貸借とは別箇独立の使用関係を承認するものではないことが肯認できるから、右同意の存在はなんら右判断を妨げるものではない。

要するに、平和条約発効後の本件賃貸借は、少くとも本件工場施設、土地が原告に返還された昭和三五年六月三〇日には前記のように本件土地の殆んど全部がゴルフ場として使用されている事実に照し右賃貸借の目的ないし存続の趣旨を喪失したものというべきであるから、右経過後はその存在を前提とする被告の協議を前提とする更新権は消滅し、次年度以降は、原告の承諾のないかぎり賃貸借を継続するに由ないものとなつたと判断するのが相当である。

3  そうすると、原告は昭和三五年七月一日以降昭和三六年三月三一日まで三ケ月の更新を承諾したが同年四月一日以降はこれを拒否してきたことは前説示(一)のとおりであるから、同年三月三一日をもつて本件賃貸借は終了したといわなければならない。

なお、本件賃貸借は、その契約目的、占有使用者の特殊性に鑑み、一般社会生活における住居の安定を目的とする借地借家法の適用のないことは被告の認めるとおり、これを肯定すべきである。

四  結論

以上の次第で、本件係争の土地および建物の各所有権およびこれに対する各賃貸借の終了による返還請求権に基いて右各明渡を求める原告の本訴請求はいずれも理由があるから、これを正当として認容すべきである。

よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用し、なお仮執行宣言の申立についてはこれを付さないのが相当であるのでこれを却下し主文のとおり判決する。(裁判長裁判官西川美数 裁判官園田治 山之内一夫)

目  録<省略>

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